故・伊達悦子先生(元顧問)

 5年前の2016年6月3日、元作新学院大学教授伊達悦子先生が、癌のためご逝去されました。伊達先生には長くチャイルドラインとちぎの顧問をつとめていただき、たいへんお世話になりました。感謝いたします。

 伊達先生は日本大学文理学部心理学科を1067年に卒業され、長野県の児童相談所に心理判定員として奉職されました。その後1969年に栃木県の児童相談所に移り、以来 県立保育専門学院を経て、作新学院女子短期大学講師、付属幼稚園園長、そして作新学院大学および大学院教授となられ、臨床心理・児童福祉の分野で研究・実践に熱心に取り組まれ、後進の育成にも尽力されました。大学に開設された相談室でも現場にたたれ、合間に各所で講演・研修の講師をつとめるという、たいへん多忙な日常だったそうです。

 そんな輝かしい功績を残された伊達先生の印象は、いつも「真摯でおだやか」でした。

 伊達先生がまだ体調を崩される前のことです。ある年の2月の水曜日、県の精神保健福祉センターで、県内で電話相談にあたる様々な団体の相談員合同の研修会があり、チャイルドラインとちぎからも私を含め数名が参加しました。この時の講師が伊達先生でした。

 そのちょうど一週間後、伊達先生を講師として今度は別の団体の主催で、社会的養護にかかわるアドバイザーについての研修会がありました。県庁の一室で行われたその研修には、各市町村の福祉担当者、児童相談所職員、養護施設職員、里親などが大勢参加していました。この研修も前週の合同研修も対象者が電話相談員かアドバイザーかの違いで、どちらもテーマは「相談を受けるときの心構え」でした。配布されたレジメは、「同じテーマで研修を依頼されても、レジメの使いまわしはいたしません。その団体に合うようにその都度書いています」という伊達先生のお言葉通り、前週の研修の時とは違うものでした。ですが、講義の内容もレジメも、前週の研修とかぶる箇所がいくつもありました。

 最後の質疑応答の時に、私は手をあげました。まず私は前週の合同研修会にも参加していて、そのときのお話も今回も具体的でわかりやすくいいお話をありがとうございました、とお礼を申し上げました。伊達先生は、「まあ」とにっこりほほえまれました。そして「アドバイザーであっても電話相談員のように、相手の気持ちに寄り添う細やかな配慮が必要なのか」ということを質問しました。アドバイザーというと、たとえば消費生活アドバイザーのように、利用方法や詳細がわからないときにそれを問い合わせると教えてくれる人、助言をしてくれる人というイメージでした。そのせいか、もっと事務的な対応が求められたり正確さが重視されたりするのかな、という先入観があったのです。

 私がしゃべり終える前に、伊達先生はまたにっこりほほえまれ大きくうなずきながらマイクを手に取りました。そして次のような答えをいただきました。「相談室に電話をかけてくるのは、困ったことがあるから、悩んでいることがあるから。相手が困っている、悩んでいる、ということは、相談員にとってもアドバイザーにとっても同じで、まずその気持ちを受け止めることが大切なのです。」

 それが、私が拝見した伊達先生の最後のお姿でした。質問を通してのこととはいえあの時伊達先生と言葉を交わせて本当によかった、としみじみ思います。日本には一期一会という言葉がありますが、一回の出会い、一瞬のチャンスを大切にしたいものだとまさにそれを実感したのでした。

 伊達先生のご冥福をお祈りいたします。

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